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子どもの成長・発達・学習と睡眠との関わり(令和2年3月15日号)

第一人者が説く「眠りの極意」 良い睡眠は「質」と「リズム」

 春は進学・進級の時期。子どもたちにもストレスがかかりやすくなります。最近の研究で質の良い睡眠は疲労を回復させる上に、脳や体の発達を促したり、情緒や行動を安定させたりするということも分かっています。睡眠について長年研究している精神科医の内村直尚さんに話を聞きました。

久留米大学学長・医師 内村直尚さん
精神医学、睡眠医学が専門。睡眠研究の第一人者として知られる。
平成19年医学部神経精神医学講座教授、25年久留米大学医学部長を経て、今年1月に現職に就任。
昭和31(1956)年久留米市生まれ。63歳

23時までの就寝で質を確保

 よく親が子どもに言う「早く寝なさい」。これ正しいんですよ。良い睡眠が取れる時間帯は21時から朝4時ごろ。そして、子どもは寝てから4〜5時間後までに、質の良い睡眠が出現しやすい。なので、朝4時までに最初の5時間を取るためには、遅くても23時ごろまでには寝ることですね。より早く寝た方が、質の良い睡眠が取れます。

記憶量が5倍にも

 最近の研究で、睡眠が生みだすいろんな効果が分かってきています。その一つが学習。記憶は睡眠中に脳に固定されます。勉強後、十分な睡眠を取った場合、そうでない場合と比べて平均記憶量が5倍というデータもあります。また、体力や運動面でも良い効果が。持久力を調べたら、睡眠時間が「8時間以上」の子どもが「6時間未満」の子どもを上回りました。
 情緒面にも睡眠は影響します。寝る時間が遅いほど、「理由もなくイライラする」子どもの割合が増します。さらに、発達障害の代表的な症状である「多動」「衝動性」「不注意」が、睡眠不足で出やすいのです。
 このように、睡眠は子どもの成長に大きな影響を与えます。でも、国際的に見て日本人は睡眠時間が少ない。これは子どもも同じで、しかも、小学6年から中学校を卒業するまでに、約1時間、睡眠時間が短くなっているのです。

睡眠の役割

  • 脳や体の休養、疲労回復
  • 脳の過熱を防ぐため体温下降
  • エネルギーの保存
  • 成長ホルモンの分泌
  • 免疫機能増加
  • 記憶の固定

体内時計のずれをリセット

 質の良い睡眠を保つには「リズム」がとても大切です。1日は24時間ですが、人間の体内時計は25時間。この1時間のズレを日々うまくリセットしてリズムをつくるのです。いくつかあるリセット方法で重要なのは「朝の光」と「食事」です。
 良いリズムはスムーズに眠ることから。そして、そのためには「朝きちんと早く起きる」ことが大事なんです。人は起きてから16時間後に、眠気を促す物質「メラトニン」が分泌されます。朝9時に起きたら夜中の1時にしか眠くならないのです。
 起きたことを体が実感するには朝の光が一番。浴びる光の明るさの目安は3000ルクス。「曇りの日の室内の窓際」ほどの照度です。家の東側に子ども部屋やダイニングを置き、朝カーテンを開けると良いでしょう。あと、きちんと朝食を取るのも大切です。
 起床時間が日によって変わるのは良くありません。休日に遅くまで寝ていると、体内時計が狂い「時差ぼけ」を起こします。3時間遅く起きたら、インド旅行に行った状態と同じ。平日との差は子どもで1時間程度、大人で2時間以内にしましょう。

最低体温の1時間後に起床

 睡眠と基礎体温の関係を知ると、もっとうまくリズムをつくれます。1日の中で最低体温を迎えるのは、朝の4時〜6時ごろ。そして、すっきり起きられるのはその1時間後です。
 しかし、夜型の人はそれが後ろにずれます。仮に朝8時以降に最低体温がきたら、学校や試験が始まる時間、まだ体は起きていません。朝型を保つには朝の光を浴びる。夜の光を浴びると体内時計が遅れて、どんどん夜型に。いかに朝の光を浴び、夜の光を避けるかが重要です。

「青白い」夜の光にご用心

 日本人の睡眠の質が上がりにくい理由の一つに、夜でも強い光を放つコンビニやスマホが生活に深く入り込み、夜型になりやすくなったことがあります。これらが私たちの睡眠を奪っているんです。
 LED電球やスマホ画面から出る青白い光は要注意。眠りを促すメラトニンを抑制します。塾通いやその道中の店など、子どもたちが夜の光を浴びる機会は増えています。影響を受けやすい子どもを、夜の光から守らないといけません。

子どもがぐっすり眠る「生活リズム10カ条」

  1. 朝決まった時間に起きて光を浴びる
  2. 朝食を規則正しく取る
  3. 昼間から夕方までの活動量を増やす
  4. 夕食は規則正しく、寝る2〜3時間前までに済ませる
  5. 20時以降はコンビニなど明るい場所に出掛けない
  6. お風呂は寝る1〜2時間前に
  7. テレビやゲーム、スマホなどは寝る前1時間は避ける
  8. 寝室は暗くする。白色LEDには特に注意
  9. 寝る時刻は一定に。小学生は22時〜23時、中学生は24時までに
  10. 小学生は8〜9時間、中学生は7時間以上。健康を守る睡眠時間を確保

睡眠を軽んじる日本

 私は睡眠の研究を通して、日本が睡眠を犠牲にする風潮を感じます。意識の低さも一因でしょう。高度成長期には「企業戦士」という言葉がありました。日本人特有の「勤勉さ」が、眠りを後回しにしてしまいがちなのかもしれません。
 毎年冬にはインフルエンザが流行。今年は新型コロナウイルスも猛威を振るっています。睡眠は、免疫力を高める最も効果的な方法だともいわれています。もっと皆さんに睡眠への意識を高めてもらいたいですね。

睡眠時間の国際比較

南アフリカ 9.2時間
中国 9.0時間
アメリカ 8.8時間
カナダ 8.7時間
スペイン 8.6時間
フランス 8.5時間
オーストラリア 8.5時間
イギリス 8.5時間
ドイツ 8.3時間
ノルウェー 8.2時間
メキシコ 8.0時間
韓国 7.7時間
日本 7.4時間

学年別平均睡眠時間

小学1年=8時間52分
小学3年=8時間45分
小学6年=8時間18分
中学1年=7時間38分
中学2年=7時間22分
中学3年=7時間8分

【問い合わせ先】教育部総務(電話番号0942-30-9213、FAX番号0942-30-9719)

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