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ものづくり日本大賞 市内の3企業が受賞(令和2年3月15日号)

ものづくりの街、本領発揮

 国が主催する「第8回ものづくり日本大賞」に、市内の3企業が同時に選ばれました。各社を取材し、製品や技術の特徴、開発のきっかけや舞台裏、そこに懸けた思いなどを聞きました。

【問い合わせ先】商工政策課(電話番号0942-30-9133、FAX番号0942-30-9707)

ものづくり日本大賞とは

 日本の産業・文化の発展を支え、豊かな生活の形成に大きく貢献してきたものづくり。それを着実に継承し、さらに発展させていくために、内閣総理大臣表彰「ものづくり日本大賞」は創設されました。
 第一線で活躍する、特に優秀と認められる人々の取り組みを顕彰します。特に、昨今わが国の製造業が直面している事業環境の変化に柔軟に対応し、新たな付加価値を持つ製品やサービスを提供する人にスポットライトを当て、広く発信していくこと。これこそが、ものづくりに携わる全ての人の意欲向上につながるという考えで、2005年から行われています。

1枚の接着フィルムが起こす「働き方改革」

中島ゴム工業

受賞件名
防振ゴム製品製造におけるVOC排出ゼロと製造コスト削減を実現する加硫接着プロセス
受賞者
(同社)中島幹雄、江口力人、高田芳邦、吉住武美、(県工業技術センター)木村太郎、浦川稔寛、(久留米高専)渡邊勝宏

液体接着剤を固体化

 「人命に関わる部分の安全のための接着技術です」。中島ゴム工業代表の中島幹雄さんは話します。加硫接着とは、ゴム成型時の熱や圧力を利用し、より強い接着力を生む技術で、強度は一般的な接着剤の約10倍ともいわれます。車のエンジン周りやサスペンションなどに使われる防振ゴムの製造に使われ、シビアな性能を求められます。
 これまで多く使われていた加硫接着剤は液体。同社はこれをフィルム化し、さまざまな問題を解決しました。

世界トップ水準の経験と技術

 同社は以前から加硫接着剤メーカーの製品不具合の解析を受注していました。なかなか減らない不具合に加え、有機溶剤系接着剤の有機溶剤蒸散による健康被害が問題になっていました。そこで、平成23年に製品開発を始め、26年に販売を開始したのが、フィルム化したこの製品でした。
 この製品は、揮発性有機化合物(VOC)が発生しないことや保管期間が長くなることなどのメリットを生む上、工程の変更が最小限で済むように工夫されています。添加物を入れることなく液体を固体化しているため、接着剤の配合成分が全く変わっていないのです。
 加硫接着剤の特性や配合技術に精通していないと実現できないと言う中島さん。「わが社のスタッフは世界トップクラスの経験や技術を持っています。加硫接着剤に関する長年の仕事で、ノウハウを蓄積していますから。大手自動車メーカーから講師として呼ばれることもありますよ」。

日本人の真面目さが裏目に

 中島さんは接着フィルムを「働き方改革につながる製品」だと言います。VOCを出さないのは、自然環境に優しいのと同時に、働く現場の環境も大きく改善します。
 「この製品は欧米や中国での取引が中心。日本はVOC規制が緩く有機溶剤系接着剤がいまだに使われています。これは、日本人の生真面目さが裏目に出ていると思うんです。夏には50度にもなるゴム製品の製造現場で、日本人はガスマスクを着けて作業しているのです。海外ではあり得ませんよ」。
 一番の効果を「働く人の健康が守られること。これが高い付加価値です」と話す中島さん。このフィルムは、ゴム製造現場のコストやリスクを改めて考え、働く現場を見直すきっかけを生むのかもしれません。

製品が紡ぐ技能の伝承

アサヒシューズ

受賞件名
膝のトラブルを予防するSHM機能搭載の「アサヒメディカルウォーク」健康シューズ
受賞者
塚本裕二、江西浩一郎、岡謙祐

きっかけは社員の膝の痛み

 「歩くことで健康に」。前代未聞の靴の開発のきっかけは一人の社員の膝の痛みからでした。
 「『快歩主義』という看板商品の営業で全国を走り回っているうちに膝に水がたまってしまって」と話す塚本裕二さん。メディカルウォークを着想した本人です。膝の手術の直前、快歩主義の開発に関わった理学療法士から「運動療法」を勧められ、けがと運動の関係性に出会います。そこで、知り合いの医師に「『歩きやすい』からもう一歩踏み込んで、『歩くことで健康になる靴』ができませんか」と相談したそうです。平成15年のことでした。

これまでに無い物を

 膝の痛みと大きな関連を持つ「膝の回旋運動」。かかとが着地する際、膝が外に回って衝撃を逃がすという体のメカニズムです。これを補う靴を目指して開発に着手。参考にしたのはドイツの医療用装具でした。九州大学や市内医療機関と連携し、臨床試験も十分に行いました。
 塚本さんは当時を振り返り「社内で反対の声もありました。靴底は安全のために『動かない』のが常識でした。靴底で動きを出すなどあり得ないと言うのです」。塚本さんは根気強く説得を続けます。「共に育った地元企業から、世の中に無い価値ある物を送り出したかった」。

社の存続を左右する一足に

 開発は進み、サンプル制作の段階に。スクリュー部分の耐摩耗性や石の挟まり、ぬれた床での音など、課題は山積み。「靴屋として、ゴム屋としての知見を全て結集した」と塚本さん。ゴムの配合、成形、断面処理。学童用の靴から防衛省の戦闘靴まで、あらゆるタイプの靴を作ってきた経験を注ぎ込み、18年、ついに完成に至りました。
 当初、海外で生産していたこの商品も、26年に久留米工場での生産を開始しました。「この靴の存在と国産化が、社の存続を左右する技術伝承に大きな意味を持ちます」と話します。靴底はベテラン社員の職人的技術が実現した物。製造を通じて若い社員に技術や経験を受け継ぐ。これがものづくり企業の未来を支えるのです。
 メディカルウォークは累計170万足を販売。「他社が同じような目的の靴を作り始めた。私たちの製品が本物だと認められた証拠です」と塚本さん。製品への自信が現れます。

蓄積データが信頼を生む

大電

受賞件名
暮らしを支え進化し続ける「FAロボットケーブル」の開発
受賞者
吉田曉生、津地誠哉、仁井見積、西村和彦、前田俊輔、諫元伸幸、井上雄太

2000万回の屈曲に耐える

 「ロボット用ケーブル製造では先進企業でしょうね」。昭和57年からFAロボット用ケーブル事業に参入した大電。一般的な電線を製造する中で蓄積した技術を生かして、他社に無い強みを生み出しました。
 一番の特徴は長寿命。動作保証は2000万回の屈曲で、一般電線の10倍以上に及びます。同社のロボット用ケーブルは、車の製造現場などで使われるロボットの激しい動きでも、断線せずに信号を伝え続けます。
 具体的に何が違うのか。技術部長の西村和彦さんは説明します。「一つ一つの材料で強度を出します。例えば導体となる銅線は1本の棒状ではなく、細い線を束ねて作る。導体を覆う絶縁材や表面に使うシース材も、独自配合で内製します」。
 受賞のもう一つの要素は、ケーブルの寿命を把握する「施設」と「ソフト」の存在です。同社で開発した「寿命予測ソフト」は高い精度を誇ります。理由は長年のデータの蓄積。「30年前からロボット用ケーブルを作っていて、屈曲試験装置は当時から使っています。そして、長年にわたって装置の種類や台数を増やし、データを積み上げてきた。予測ソフトでシミュレーションするときの情報量が違うんです」。

次世代のケーブル製造へ

 ロボット用ケーブルで証明された信頼性はさらなる高みに。「USBケーブルのような大容量高速通信ケーブルをロボット用にアレンジしています。単に断線しないだけではなく、通信レベルを確保しないといけない。でもこのケーブルがあれば、ロボットにカメラを搭載するなど、できることが増えます」。
 今や家にはお掃除ロボ、店には接客ロボットが活躍する時代。市場の拡大に伴って競争相手も増えていきます。「小型化の動きは間違いないでしょうから、ケーブルはさらに細く切れにくいものが求められる。現在、ロボット用ケーブルの新工場を建設中です。拡大するロボット市場に乗り遅れないように、これまで蓄積した技術を生かしていきたいですね」と西村さんは自信を語ります。

ものづくり企業を一冊に

 市内には優れた技術を持つものづくり企業が多数。61企業を分野別に収録した事例集を公開しています。

職人かつ商売人 久留米の独自性

 久留米は世界的タイヤメーカーのブリヂストンの創業の地。ゴム3社が久留米の産業を率いてきました。古くは東洋のエジソンといわれた東芝の創業者、田中久重もいて、独自の産業が育つ素地が久留米にはあると感じます。今頑張っている中小企業には「ニッチトップ」「オンリーワン」がたくさん。「メード・イン・久留米」と、地元を大切にする企業が多いんです。
 さらに言うと、商人気質も感じます。単に質の良い物を作る職人気質だけでなく、人々が欲しい物を考え、新しい物を作る気概がある。これをさらに進めるには企業同士のコラボレーションは面白いですね。地域での研究会なんか。それを行政が橋渡しできれば「オール久留米」のものづくりになりますね。

海外進出を実現した、洗濯や摩擦で色移りしない高品質の久留米絣製品

第6回経済産業大臣賞受賞 伝統技術の応用部門「オカモト商店 他5団体」

 生活様式の変化や染料への規制、色移り・色落ちの問題から絣の需要が縮小する中、新たな染色技術を開発。濃い色で境界部分も明確、洗濯で色移りしない高品質な絣を実現しました。原色からパステルカラーまで多彩な色を表現でき、洋装や雑貨などにも応用可能に。また、輸出規制をクリアし海外でも販売を開始しました。
 産地が一体となった新技術の導入で、約8割の製品が新技術へと転換。久留米絣業界全体の品質向上に大きく貢献したことが評価されました。

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