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3月は自殺対策強化月間 「SOSの出し方教育」青陵中学校で開催(平成31年3月15日号)

あなたは無条件に大切 心の守り方を知って

 若い年代の死因1位は自殺です。働き盛り世代や生活に困っている人への自殺対策だけでは不十分。久留米市は子どもや若者の心を守るために、中学校で「SOSの出し方教育」を始めます。

思春期はジェットコースター 反抗期じゃなく成長期だ

 2月25日、青陵中学校の2年生99人を対象にSOSの出し方教育が開かれました。

「大切」に理由は無い

 「理由なんか無い。あなたたちは無条件に大切な存在なの」。
 子どもへの暴力や思春期のいじめ・デートDVを無くす活動を行う「NPO法人にじいろCAP」代表の重永侑紀さんは訴えます。「みんなが安心して生活できるようになるための授業です。『思春期』を知り、対応できるようになること、そして、特別な関係の人ができた時に困らないようにすることが目標です」。

思春期はどんな時期?

 「みんな思春期って何と思う」。重永さんの問い掛けに、生徒たちは顔を見合わせ、自分なりに考えます。
 「思春期は、性ホルモンが大量に出て、体と心のバランスを崩しやすい時期。ジェットコースターみたいに、気持ちの上がり下がりが激しい。自分が分からなくなるけど、ホルモンバランスの影響だよ。必ず終わりが来るから安心して」と語り掛けます。
 思春期の変化には、接する大人も関わり方を変える必要があると言います。「対応し切れない大人が面倒くさがり、みんなの変化を反抗期の一言で片付けちゃう。今度そう言われたら『今成長期なの。思春期はジェットコースターなんで忙しいんです』と言ってね」。
 初めて出合う言葉に、多くの生徒がうれしそうな表情を見せました。

力の湧く言葉 心を守る

 続いて話は、人間関係に。友人、保護者、親戚。いろんな人間関係の中で、時に心が傷つくことも。心の傷は見えにくいからこそ、早く治療しないといけないのです。「傷ついている人への応急手当てを教えておくね。『応援するよ』『信じているよ』と、力が湧く言葉を伝えて」。誰もが、自分を「一人きりじゃない」「大切な存在」と思えることが大切だと重永さんは言います。
 そして、もう一つのポイントは「ただ聴く」こと。「アドバイスはいらない。じっと聴いて、『話してくれてありがとう』と、一言だけ伝えてね」。

「NO」で自分を守る

 この授業のテーマのSOSの出し方。その一つは「いやだ」と言うことです。
 「これは人を傷つける言葉じゃない。自分を守る時に出す言葉なんだよ」と重永さんは話します。
 先輩から命令されたときなど、怖くて言えないこともあります。「それは弱さではなく、ただの力関係。そういうときは『さあ、どうしよう』と考えるチャンスと思って。その出来事を無かったことにして、自分の気持ちをごまかすのは良くない。誰かに頼って、相談して。相談と密告は違う」。

「なのに」は「くせに」

 思春期には、恋人や部活の仲間や親友など、特別な関係の人を持ちたくなるもの。しかし、特別な関係になると考え過ぎたり、やり過ぎたりしがちです。
 重永さんが訴えたいのは「思い込みは関係を壊す」ということです。「『女なのに』『男なのに』と言い出すとこじれるの。『なのに』は『くせに』と一緒。いじめや暴力に行き着く言葉。どんな人でも支配はできない。どんな関係でも相手が嫌がることはしないで。『君の嫌がることはしない』とちゃんと伝えて」。
 真剣に聞き入る生徒に、「思春期に失敗はつきもの。成長中なんだから」と声を掛けます。

君たちは守られている

 思春期の素晴らしいところを「自分をデザインできるとこ」と言う重永さん。50分の授業を振り返り、こう訴えました。「君たちは多くの法律で守られている。そんな今大切なのは、失敗してもいいから、必ず『誰かにしゃべること』。相談電話もある。保護者も先生も私たちも居る。一人にならないで。あなたは大切な人だから」。

声掛けが安心を生む 信じられるとうまくいく

 2月14日。生徒への授業に先駆け、同校の先生向けの研修が開催されました。

児童生徒の3000人

 初めに保健所職員が、国内における子どもの自殺の現状を説明。平成18年から10年間の、児童と生徒の自殺者数は約3000人。子どもたちが、助けを求める具体的な方法を学ぶ必要があることを説明しました。
 その後、重永さんと交代。「悩んだ生徒への対応は本当に難しいと思います」と前置きし、自殺に対する知識を共有します。
 「自殺と自傷の違いは目的。自傷は生きるために仕方なくやるもの。最大のSOSです」。しかし、周りの大人は30人に1人の自傷行為にしか気付けていないというデータも。先生たちはSOSに気付くことの大切さを実感していきます。

SOSを引き出す

 周りの大人の対応で、思春期の行動は大きく変わります。重永さんは、先生たちに「声掛け」をお願いしました。「言葉にするのが苦手な子の『別に』という反応にも諦めないで。先生に『立ち入り過ぎた』と思わせてくる子も居るけど、もう一度踏み込んで」。先生たちが決して全てを解決できるわけではない。その一歩は「SOSを言葉にするチャンス」をつくるためなのです。
 つらい経験や記憶は、簡単に消えません。でも、社会に安全な場所があることが分かると、自分をコントロールできるようになります。重永さんが思うポイントはおしゃべり。「まとまらない気持ちを言葉にできる場になってあげてください」と伝えました。

気持ちをストレートに

カップル「あるある」寸劇で表現

 付き合い始めて3カ月の「ジュンコ」と「ヒロ」。誕生日のデートを誘った時のやりとりを寸劇で披露しました。
 「普通、彼女は誕生日を彼氏と過ごすものだろ」「俺以外の人を好きなのか」と不安にさいなまれるヒロ。自分の思い通りの行動をさせようとすることは、暴力に発展する危険な信号です。特別な関係は「気持ちが楽になる関係」だと重永さんは言います。
 大切なのは、気持ちをストレートに表現すること。不安な時は「不安だ」と素直に言うことで、関係がうまくいくことが多いようです。その後、気持ちを直接的に伝えることでうまくいったパターンを披露。なお、同法人スタッフのジュンコ役と掛け合いを披露したヒロ役は、2年担任の鬼木俊輝先生でした。

久留米市自殺対策計画の策定進む 子どもの自殺リスク減少へ

 久留米市は現在、初の自殺対策計画の策定を進めています。同計画では、「子どもや若者」を重点的な取り組みの対象の一つに。将来の自殺リスクの減少に取り組みます。

地域づくりの視点を

 同計画は、31年度から4年間の取組方針や事業をまとめています。市内の現状分析や取り組みから見えてきた課題なども掲載。今後は、地域づくりの視点を持った対策や、世代や性別などに応じた課題解決策が求められるとしています。

15歳〜39歳の死因1位

 計画では、重点的に取り組む対象の一つに、「子どもや若者」を設定しています。背景には、15〜39歳の死因1位が自殺であることに加えて、20歳代で自殺者数が急増していることが挙げられます。
 将来の自殺リスクを減らすためには、自殺の要因となるさまざまな課題に対応する方法を身に付けることが大切です。さらに、自尊感情を高めたり、相談しようとする意識を生み出したりする必要があります。
 国の自殺総合対策大綱でも、子どもが誰にどうやって助けを求めれば良いかを学ぶ場づくりが求められています。

命を支え合う社会へ

 31年度は、SOSの出し方教育の開催校を増やす予定です。さらに、学校へのソーシャルワーカーやカウンセラーの配置、気軽に相談できる環境づくりなどを計画。子どもの成長と子育て家庭を支え合える地域を目指します。

【問い合わせ先】保健予防課(電話番号0942-30-9728、FAX番号0942-30-9833)

年代別の死因順位
年代 1位 2位 3位
10〜14歳 悪性新生物 感染症(上位と同数)
15〜19歳 自殺 不慮の事故(上位と同数) 心疾患
20〜24歳 自殺 肺炎など
25〜29歳 自殺 悪性新生物 不慮の事故
30〜34歳 自殺 悪性新生物 不慮の事故
35〜39歳 自殺 悪性新生物 不慮の事故
40〜44歳 悪性新生物 自殺 脳血管疾患
45〜49歳 悪性新生物 自殺 脳血管疾患
50〜54歳 悪性新生物 自殺 脳血管疾患
55〜59歳 悪性新生物 心疾患 自殺、不慮の事故
60〜64歳 悪性新生物 脳血管疾患 心疾患(上位と同数)

自殺は幅広い年齢層で上位に入っていますが、中でも15〜39歳の若い年代では、死因第1位が自殺となっています。
(注意)23〜27年県保健統計年報データを基に市が集計

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