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特集 地域共生社会を考える(令和元年11月15日号)

誰か。じゃない、誰でも。

 人口減少や少子高齢化が本格化し、将来への不安が広がっています。ご近所付き合いが減り、社会的な孤立は深刻化。現代の複雑化した課題は、保障・支援制度のはざまを浮き彫りに。誰もが暮らしやすく安心できる状況には、残念ながら至っていません。
 国は未来像として「すべての人々が地域、暮らし、生きがいを共に創り、高め合うことができる『地域共生社会』の実現」を掲げています。
 地域共生社会とは何か。実現には何が必要なのか。市内では、地域共生社会に近づこうとする人々の動きがあります。そこから「誰か」ではなく「誰でも」関わる課題であることが見えてきました。

食卓で向き合うような関係の中で

 「みんなのサロンSORA」で1人の女性がおむつケーキを制作・販売しています。日常生活の中に築いたつながりが、さまざまな人の挑戦や孤立防止に役立っています。

 10月の取材時。SORAを経営する村谷純子さん(津福本町)は「瑞穂さんと二人三脚で頑張ってきて本当に良かった」と9年間を振り返りました。

本業プラスアルファをつながりの場に

 SORAは、村谷さんが自宅で開業したネイルやまつげエクステなどの美容サロンです。その傍ら、女性の活躍を応援する人に講座を開くための部屋を貸したり、地域住民との触れ合いの場となる祭りを開催したりしています。村谷さんは「本業プラスアルファ」と銘打ち、さまざまな人の挑戦や、元気になるための活動を応援しています。
 活動の原点は、SORAの一室で働く1人の女性です。9年前からおむつケーキを作る米澤瑞穂さん(合川町)。彼女はダウン症で、知的障害があります。SORAで働くようになったのは、彼女の高校卒業時、母親から村谷さんへの相談がきっかけでした。

好きな仕事をしたい

 瑞穂さんは、村谷さんが知的障害のある幼児の通園施設で保育士をしていた時の教え子。高校卒業を前に、母親が瑞穂さんに進路の希望を聞くと「就労支援事業所だけじゃなく、好きな仕事もしたい」。しかし当時、糖尿病も発症していて、職場でのインスリン注射が必要。周りの大きな配慮が就業の前提でした。いつか教え子と一緒に働きたいと考えていた村谷さんは、おむつケーキの制作・販売を思い付き、現在に至ります。
 瑞穂さんは週2、3日、バスを乗り継いで通勤しています。朝9時、掃除から始まり、10時前に作業開始。昼を挟んで作業が続き、帰りのバスの時間に合わせて後片付けします。
 作業を繰り返しこつこつと行うことが得意な瑞穂さん。「形ができていくことが何より楽しい」と話します。1年目はおむつをうまく巻けず悔し涙を流すこともありました。1人でできる作業を徐々に増やしていき、2年目には周りから「きれい」と言われるほどに。3年目からは2階の一室で1人で作業を行うようになりました。当初は年間100個の販売数が、5年目以降は300個以上に。口コミで客層が広がっています。

つながりづくりの大切さ

 村谷さんは本業プラスアルファで、つながりづくりを大切にしています。「生きる基本は食だと思っています。食卓を囲み顔を向き合わせていると関係も深まる。その感覚を大事にしています」。瑞穂さんの成長もこうしたつながりの中で育まれてきました。
 サロンのお客さんから「ダウン症の子」と言われていた瑞穂さんは、9年の間に「瑞穂さん」と名前を覚えられ、瑞穂さんはお客さんに時計の見方や掃除のこつなど、分からないことを教わるように。年に1回の祭り「そらいち」で地域の皆さんとの交流を深めていることで、隣近所の皆さんが瑞穂さんの通勤を見守ってくれています。

長い付き合いで見えること

 本業プラスアルファの特徴の一つは「長期的に人と向き合える」こと。SORAは住宅街の一軒家で開業。「地域に根差して営業するからこそ、お客さんとも地域の人とも長く付き合える。すると、状態の変化に気付けるんです」。
 村谷さんは、多くの人の悩みや苦しみに寄り添ってきましたが、決して相談所と相談者の関係にはなりません。「相談所って、悩みや苦しみが対象という感じでしょ。それだとハードルがある。お茶を飲みながら、ぽろっと話せる。そんな楽な関係が理想的だと思います」。

二人三脚で「共創」

 つながる楽しさが、これからの時代を生き抜く力になると信じる村谷さん。SORAのつながりは瑞穂さんと二人三脚で創ってきたそうです。「共生社会には共創の感覚が大事。7年前、私ががんになった時、瑞穂さんが変わったんです。私ができないことを代わりにやると言い出し、知り合いに出した手紙には『SORAは自分が守る』と書いていたそうです」。
 さまざまな人が日常の中でつながる。そこから安心や生きがい、目標を共に創り出す。SORAが目指す地域のつながりは、困難を抱えていても社会から孤立せず、その人らしい暮らしを実現する手段の一つです。

つながりから生まれた講座

 SORAの貸室を利用して、自分に似合う色を選べるようになるための講座を開いています。SORAの祭りで体験会を開き、アンケートを取るとニーズがあることがわかりました。講座を始める時に集客は重要。そこがスムーズだったのは、地域とのつながりがあればこそです。オープンで友達の家みたいだから、みんな集まりやすいんだと思います。

「支える」「支えられる」を超えて混じり合う

 高齢者、子育て中の人、フリースクールの生徒。特徴を組み合わせ、力を最大限に生かす。宮ノ陣のカフェでは、「支え手」と「受け手」の垣根はありません。

 「自分が役立つ場所が誰にでもある。そして、それを認識できることが大切なんです」とフリースクール「未来学舎」代表の中島康博さん(太宰府市)は言葉を強めます。
(注意)フリースクール=何らかの理由で学校に行くことができない子どもたちの学習の場や居場所となる教育施設。 子どもの意思や自主性を尊重した体験活動や学習指導を行う施設が多い

カフェを拠点に生かされる力

 宮ノ陣にある介護付き高齢者住宅「こがケアアベニュー」の1階に「Wカフェ」はあります。
 6月から未来学舎が運営を受託。3食付きの高齢者住宅という採算を取りづらい状況のカフェで、関わる人々の力を生かし合い、好循環を生み出しています。中島さんは「施設から相談を受けた時、『高齢者と子どもたちは相性が良い』と直感。受託を決めました」と話します。
 スタッフは、フリースクールの法人スタッフと卒業生が中心。中島さんはカフェを「フリースクールの生徒の職業体験の場にも、子育て中の人の就業場所にもなる。いろんな可能性が生まれる場です」と話します。
 「ある保護者から、小学生の娘と息子が学校に行かなくなったと、私に相談がありました。育児中はただでさえ仕事ができる時間が限られます。その上、子どもが学校に行かなくなるとなおさらです。そこで『うちのカフェで働いて、子どもさんを連れて来てみては』と言ってみたんです」。

子どもの近未来の姿を見る

 中島さんには考えがありました。「学校に行かなくなったから『じゃあフリースクール』とはいきません。接点の持ち方が大事。カフェなら遊びに行くくらいに思える。そして、ここにフリースクールの卒業生が居る。行き詰まり、悩みを抱え込んだ親子にとって、近い将来の姿を重ねる存在になると思うんです。カフェで、子どもたちはだんだん表情が明るくなり、今も良い関係が続いています」。
 さらに、カフェがあるのは高齢者施設。「子どもが居ると高齢者はうれしい。お守り役には困りません。保護者も安心して働けるし、カフェのお客さんも増えますし」。

子育て世代の力を最大限に

 中島さんは、カフェを使って、働きたい母親の就業支援に取り組む団体「ままごと」と連携した取り組みも進めています。
 「あるWEBプログラミング会社の社長は人材が足りないと言っていた。一方で働きたいけど働けない子育て中の人が居ます」。そこで講座の場を提供しようと発案。会社は仕事に必要なプログラミングの知識を、仕事をしたい母親に教えます。「ここで欠かせないのは子守役。お昼に時間が取れる生徒に、講座の時の子守役として関わってもらいました。若者はママたちよりもITに強い。学習の伴走役も果たしてくれています」と説明します。
 知識を得ても仕事ができないと意味がありません。そこで着目したのが施設内の談話室。施設の協力で、コワーキングスペース(共同仕事場)の設置を計画。親子で出勤し、互いに面倒を見たり、入居者に子守をしてもらったりする予定です。

混じり合う場をつくる

 自分が役立つ場所が誰にもあることを知って欲しいと言う中島さん。「高齢者も子育て世代もフリースクールの生徒も地域の戦力。支える人と支えられる人の区別はありません。課題を分野や立場で分けず、いろんな人が活躍できる『新しい居場所』をつくる。それが幾つもの課題解決につながっていると思います」。
 未来学舎のマークは笑顔を囲む無数の手のひら。手の大きさがまちまちなのは、関わる人の年齢や立場、力、関わり度合いの大小を表しています。「どんな関わりでもいい。なるべく多くの人が関わるのが大事で、それで笑顔が守られると信じています。僕はとにかく混じり合う場を増やしたい」。
 世代や背景を超えて混じり、相互に役割を持つ「地域課題の解決力強化」。地域共生社会を実現する大切なポイントです。

幅広い人々と触れ合う喜び

 通信制高校を卒業後、未来学舎で過ごしていた時、代表に声を掛けてもらい、突然働くことに。最初は戸惑ったけど、人との関わりがすごく楽しい。お客さんは2歳から90歳代まで。子どもたちと遊んだり、入居者にスマホやタブレットを教えたり。ここまで幅広い年代と関わる場はありません。カフェをもっと楽しみにしてもらえるよう、頑張ります。

「地域」と「活動」つないで解決

 地域の支え合いを考える場が各校区に立ち上がっています。校区ならではの課題解決には、「地域軸」と「活動軸」の異なる立場の人々の混ざり合いが重要です。

 「深掘りしないと地域課題の根本は見えない」。生活支援コーディネーターの荒木裕太さんが経験を語ります。

支え合い推進会議 36校区で

 住民や活動団体が、買い物やごみ出し、日常の移動支援など、地域の困り事を把握し、すでにある支え合いを見える化するなど、地域について話し合う「支え合い推進会議」。市内36校区で立ち上がっています。運営のサポート役は、市社会福祉協議会職員の「生活支援コーディネーター」。現在11人が活動しています。市南部を担当する荒木さんは、校区単位で活動する理由を次のように説明します。
 「ほとんどの校区で課題認識されていることに『つながりの希薄化』があります。でも深く掘り下げると、地域の環境や歴史的な背景によって課題の本質が違うんです。例えば、新築マンションが多く、出入りが多い地域と、大規模な宅地開発などで、同世代が同時期に流入した地域では、つながりのつくり方も全く違います。原因をしっかり分析し、そこなりのやり方を考える必要があるんです」。

課題と解決の力をつなぐ

 荒木さんは住民を「地域のプロ」と感じています。「住民の皆さんが感じている課題こそ本物。私たちは、一緒に悩み、お手伝いをするんです」。
 地域のプロとはいえ、必ずしも解決の手段を持ってはいません。一方、いろんな市民活動団体があり、地域には活動に関わっている人も居ます。そういった人たちと一緒に考えることで、解決の糸口が見えてきます。「子ども会が無くなる校区も増え、住民同士の接点は年々減っています。課題を把握している人々と、解決の糸口を知り、それを担える人材とが結びついていないケースも多い。『地域』を考える校区住民と、『活動』を担う団体や関係者の連携を促すのも、私たちの仕事です」。

制度のはざまに横串を通す

 生活支援コーディネーターは個別支援も行います。荒木さんは「世帯丸ごと支援」を大切に、日々活動します。「例えば、障害のある子どもには福祉制度や、支援機関のサポートがある。一方、保護者が仕事や近所付き合いの時間が取れないなど、困り事があったとして、そこへの支援はほぼ無いんです。制度はある程度縦割りにならざるを得ない。だからこそ、分野にとらわれない私たちが、制度に横串を通して、世帯全体の困り事を減らしていきたいんです」。
 荒木さんは、校区の役員や民生委員・児童委員、時には近所の人など、あらゆる人と共にその人に寄り添う。制度のはざまで苦しむ人を生みたくない。荒木さんたちの切なる思いです。

住民同士でまちのあり方を考える

支え合い推進会議シンポジウムを開催
 10月19日、「支え合い推進会議シンポジウム」が開かれ、約300人が参加しました。講演は全国コミュニティライフサポートセンター理事長の池田昌弘さん。犬の散歩で「見守られ活動」や、農業を続けたい男性のために自宅の畑をデイサービス化したケースなど、全国の支え合い活動の好事例を紹介。「つながりから『気になる』へ。『気に掛け合う』から『支え合う関係』に発展し、地域の宝物になります」と訴えました。
 荘島校区の皆さんは、高齢者のごみ出しや認知症の可能性のある人への声掛けなど、身近で起こりそうな状況での支え合いのヒントを寸劇で表現。パネルディスカッションには、高齢者支援、障害者支援、多胎児支援、ホームレス支援など、幅広い分野の活動団体が登壇。それぞれの立場から地域での支え合いへの考えを述べました。

誰もが手を取り合う地域共生社会を共創

膨らむ「私の夢」

 瑞穂さんがSORAで働き出して9年。バス通勤にも慣れた。お客さんや地域の人と親しくなり、スタッフと冗談も言い合える関係に。年齢も経験も、障害も関係ないつながりの中で、彼女は成長してきました。
 9月。初めて会った瑞穂さんの爪は、ジェルネイルできれいに彩られていました。「お給料でお菓子をいっぱい買いたい」。働き始めた頃に口にしていた彼女の夢は、年を追うごとに膨らみました。ジェルネイルをしたお客さんに憧れ、村谷さんに話しました。「それじゃ、ネイルサロンの予約をしなきゃね」と、自分で予約するよう促したそう。今の目標は「自立して、すてきな人と結婚したい」。

当たり前は当たり前じゃない

 安心して暮らす。夢や目標を追い掛ける。誰でも得られるはずのこと。しかし、それが難しい人も居る。今できる人も明日できなくなるかもしれない。少なくとも「何でも我が事」「共に築く関係づくり」「人の混じり合い」の視点は大切にしたい。
 誰も孤立しないまち。誰もが地域で生き、生かされる地域共生社会。まずは、周りの人や事に少し意識を向けることから。

【問い合わせ先】広報戦略課(電話番号0942-30-9119、FAX番号0942-30-9702)

「共に生きる」社会とは 市は地域福祉計画を策定中

社会の複雑化に対応

 「地域共生社会」。国の定義では「住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域を共に創っていく社会」。かつての日本のような家族や隣近所の支え合いが薄れる中、実現には「支え手」「受け手」という関係を超え、人や資源がつながることが大切だとしています。一方、対象者別・機能別に整備された公的支援は、複雑化した課題に対応できないケースも。縦割りの支援制度の見直しも求められています。

「我が事」「丸ごと」へ転換

 国は、地域共生社会の実現に「公的支援の『縦割り』を『丸ごと』へ」、「『我が事』・『丸ごと』の地域づくりを育む仕組みへの転換」が必要とし、次の4点に取り組むよう、方針を示しています。

  1. 地域課題の解決力の強化
    世代や背景を超えてつながり、「支え手」「受け手」の関係を超えた関係に。誰もが楽しみや生きがいを見いだし、困難を抱えていても、孤立せず、安心できる社会へ。
  2. 地域のつながりの強化
    社会的課題を、高齢者や障害者、生活困窮者などが働いたり社会参加したりするチャンスに。社会保障・産業などの領域を超えてつながり、資源の活用や活性化を実現。
  3. 地域の包括的機能を強化
    高齢者だけでなく、暮らしの中で困り事のある障害者や子どもなどが、自立して生活できるよう、地域の支え合いと公的支援を連動。地域を「丸ごと」支える、切れ目の無い支援体制を実現。
  4. 専門人材の強化・活用
    多様なニーズを把握し、暮らしに寄り添って支援をしていける、保健医療福祉の専門人材を養成。

市民と一緒に計画を策定

 久留米市は、来年度からの地域福祉計画を策定中です。地域共生社会の実現を目指す今回の計画は、市民や団体、支援関係機関と共に協議会を開き、策定を進めています。誰にとっても分かりやすい計画になるよう、組み立てや文章まで一緒に考えています。
 年内にパブリックコメントを行う予定です。一人でも多くの人がこれからの久留米の在り方に思いを巡らすことが、将来の可能性を広げます。

「地域共生社会づくり」関わる一歩に

 市内では本当にいろんな活動が行われています。女性を中心とした日常のつながりづくりや、障害のある子どもを持つ親の居場所づくりなどさまざま。「地域共生社会と言われても、何したらいいの」って思いますよね。そんな人は、もうすぐパブリックコメントを行う地域福祉計画を眺めてみてください。計画の説明会も開催します。これもれっきとした関わりの第一歩。暮らしを「みんな」で考えることが大切なんです。

【問い合わせ先】地域福祉課(電話番号0942-30-9173、FAX番号0942-30-9752)

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