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特集 大雨に備える(平成30年6月15日号)

九州北部豪雨の被災者は語る 牙をむいたふるさとの川

近年、梅雨を中心に、各地で大きな自然災害が発生しています。市は洪水に関する新避難基準を策定するなど、対策を進めています。
【問い合わせ先】防災対策課(電話番号0942-30-9074、FAX番号0942-30-9712)

下がった水位が再び急上昇

朝倉市杷木林田に住む奈須平和さんと順子さん夫妻は、昨年の九州北部豪雨で被災しました。
2人は自宅前を流れる赤谷川の決壊直前に避難。話を伺うと、水害から身を守るために大切なことが見えてきます。

1000ミリメートルの豪雨でなじみの川が一変

「赤谷川沿いの桜並木。とても好きな風景でした」「孫はこの川で遊ぶのが好きだったんです」と、2人はふるさとの川と風景を振り返ります。

平成29年7月5日、17時51分。数十年に一度の大雨を意味する「大雨特別警報」が福岡県などに発令。6日にかけて降った大雨は、平成29年7月九州北部豪雨と命名され、39人の死者を出す激甚災害となりました。
朝倉市の6日8時までの24時間雨量は約1000ミリメートルで観測史上最高を更新。26年の土砂災害で多くの死傷者を出した広島市の3倍以上に相当します。

2人の避難から2時間足らずで赤谷川は決壊。杷木林田の大部分は一面の海に。木や土砂を含んだ濁流は、家屋だけでなく多くの人の日常を飲み込みました。

水の動きが『異常』思わず叫ぶ

この日、順子さんは志波地区にある勤務先を12時30分ごろに出ました。雨は上がっていましたが、帰宅した13時30分ごろ、赤谷川を見て異変を感じたと言います。「増えた水位もさることながら、水の流れがどきっとするほど速かったんです」。いったん家に帰り、様子を見ながら昼食を取っていました。
14時過ぎごろ、杷木林田より山手にある松末に勤める友人から電話。「友人は『雨脚が異常。逃げた方が良い』と言うんです。でもその時、この辺は降っていなくて、現実味がありませんでした」。この時、松末や赤谷川の上流では、すでに記録的な豪雨に見舞われていました。
杷木林田は、24年の九州北部豪雨でも浸水被害を受けた地域。その経験からか、川の様子がおかしいと、15時ごろ、近所の人が橋の付近に集まっていました。
この頃、いったん川の水が減り、再び水位が急上昇したそうです。順子さんは「避難しなければ」と直感。外出していた平和さんに電話し、「『逃げんといかん。早よ帰ってきて』と叫んでいました」と話します。

特別警報前 既に決壊 直後に橋も寸断か

程なくして平和さんが帰宅。通帳や着替えなど、最低限の物をまとめ、16時前、それぞれ車に乗り込み家を出ました。「その時、夫は足を痛めていて、出発に時間がかかっていました。先に私が出発。とにかく赤谷川を越えないと、安全な場所にたどり着けない。でも、なかなか夫の車が見えてこない。とても焦りました」。
順子さんが橋を渡った時、すでに川の水は橋の上近くまで上昇。「早く来て」と願う順子さんに、平和さんの車がようやく追いつき、2人は何とか、うきは市に避難することができました。
その夜、平和さんはニュースを見てがくぜんとします。「杷木インター前の国道が海になっていて、『うちはどうなっているんだ』と怖くなりました」。
朝倉市で5日の夕方に降った猛烈な雨は、1時間に120ミリメートルを記録しました。杷木林田の住民から提供された写真によると、17時41分、大雨特別警報の10分前には、赤谷川がすでに決壊し、杷木林田は一面の海に。2人が渡った橋は、大量の泥水と流木で渡れなくなり、近所の住民の一部は避難できず。自宅の2階で夜を明かしたそうです。
奈須さん夫妻が自宅に戻れたのは、2日後の7日のことでした。

皮がむけた流木 積み上がる土砂

まず2人が驚いたのは、流木の量と辺りの惨状でした。「巨大な流木は、枝も皮も全て取れていて。水の力の恐ろしさを感じました」。自宅は全壊。巨大な流木が貫いたため、柱を残して1階の物はほとんど流失。濁流は、大切な思い出の品も飲み込みました。
流れ込んだ土砂と流木の量は、「玄関や小屋のかもいに、何度も頭をぶつけた」というほどの高さになっていました。片付けには、久留米市民をはじめ、多くのボランティアが参加。「本当にたくさんの人に助けていただきました」。

教訓をどう生かすか 一人一人の意識が大切

「24年の豪雨の後、近所の避難できない人を誰が手伝うか決めていたけれど、記憶が薄れていました。それに、水位の急上昇に対応できず、とても機能しませんでした」と平和さん。
順子さんは「自分で周囲の状況を見て、判断できるようになっておくことも大切じゃないかな」と言います。「5年前の経験で『ここまでしか水は来ない』と思うか、『今度はもっと来るかも』と考えるかで行動は変わります。私はとにかく川の異変が気になった。5年前の経験でできた警戒心が、早めの行動につながったと思います」。

自分の土地を知り即応できる用意を

災害の恐ろしさを体験した立場から、久留米市民の皆さんへのメッセージを求めると、順子さんは「自分の住む土地の特徴を知ることが大切」と言いました。
「例えば、この辺の山は真砂土で滑りやすい。上流の地質を知っていたら、いつ、どのように注意すれば良いか想像できる。土地を学ぶことは必要だと思います」。
平和さんは「急な豪雨が増えています。命を守るには、指示にすぐ対応しないといけない。日頃からの、地域での訓練や話し合いが、いざというときに役立つはずです」と、備えの大切さを語りました。

孫の節句のぼり「もう一度掲げたい」

奈須さん夫妻の現在の目標は、杷木林田の安全な高台への移転です。取材後、順子さんは一枚ののぼり旗を見せてくれました。
「孫の節句の物です。子どもたちの写真などたくさんの思い出の品が流されたけど、これはなぜか奇跡的に残った。これを再び掲げるのも、私たちの目標なんです」。

桜並木が美しいのどかな川も、時に表情を一変させます。身の回りの環境に目を向け、特徴を知り、危険が迫ったときの行動を想定する。自分のまちで安心して暮らすために、欠かせないことではないでしょうか。

垂直避難と水平避難

自然災害時は、自己判断での避難が原則です。命を守るためには、日頃から身の回りの環境と、その状況を把握しておく必要があります。
水害での避難方法は、安全な施設や市が開設した避難所などに移動する「水平避難」と、自宅や近所の建物の2階などに移動する「垂直避難」です。

【洪水の場合】
  • 大きい川の堤防付近、2階以上の浸水の恐れがある地域などは避難所などに「水平避難」
  • 浸水が浅い地域や、大雨で外に出る方が危険と判断したときなどは自宅2階などに「垂直避難」
【土砂災害の場合】
  • 自宅近くに土砂災害の危険区域などがあるときは避難場所などに「水平避難」
  • 大雨で外に出る方が危険と判断したときなどは2階以上で、崖などから反対の部屋などに「垂直避難」

浸水区域を地図に避難ルートの確認を

昨年、市内の道路の浸水想定を地図化した「道路冠水マップ」を作りました。
今年は、筑後川で洪水が発生したときに、どこがどの程度、浸水する可能性があるかを地図で示した「筑後川避難判断マップ」を作りました。校区ごとに作成。避難所の場所も示しているので、避難ルートを想定しやすくなっています。
市ホームページからダウンロードできます。また、防災対策課や各総合支所地域振興課などにも用意しています。

防災の基本『自助』

自分の命は自分で守るということ。大規模災害の発生初期は、救助体制が間に合わないことも。そのためには、日頃から避難グッズや非常食を準備するなど、備えが必要です。

地域で助け合う『共助』

「共助」とは、家族や町内会、自治会などのコミュニティ単位で助け合う体制をつくり、また災害発生時に実際に助け合うこと。

避難の新基準を策定 川の水位で判断

久留米市はセーフコミュニティ国際認証都市です

梅雨入り前の5月23日、洪水の恐れが生じたときに発令する、避難勧告などの基準を見直しました。
6月から、河川の水位予測を基に、校区ごとに発令します。

校区ごとに避難情報 きめ細やかな対応に

見直しは、昨年発生した九州北部豪雨が、きっかけの一つです。
市内への「大雨特別警報」の発令を受けて、市は市内全域に避難指示を発令しました。しかし、田主丸町で1時間雨量が70ミリメートルを超える雨量を観測したものの、市中心部では5ミリメートル程度。結果、避難したのは市民の皆さんのごく一部でした。
6月から運用する新しい基準では、筑後川にある、荒瀬・片ノ瀬・瀬ノ下の三つの観測所ごとに対象校区を設定。国が予測する水位や流量の情報を基に、対象校区に避難勧告などを発令します。

避難勧告などの発令基準

  • 避難準備・高齢者等避難開始=今後、「氾濫危険水位」に到達することが予想される場合
  • 避難勧告=「氾濫危険水位」に達し、今後さらに水位が上昇することが見込まれる場合
  • 避難指示(緊急)=水位が堤防の最上部に届きそうになったり、決壊や越水したりした場合

(注意)氾濫危険水位は、観測所ごとに定めています。

なお、31年度には、隈上川、小石原川、巨瀬川、大刀洗川、宝満川、広川、田手川の七つの河川でも新しい基準の運用を始める予定です。
この運用で、さらにきめ細やかで、実効性のある避難情報の発令ができるようになります。

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