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特集 認知症と共に生きる 忘れるということ(平成30年4月15日号)

超高齢社会の進行で今後も増加の見込み
発症は絶望なのか、全ては家族の問題なのか
認知症を通して人や地域のあり方を考えます

国の推計では、認知症の人は2015年で500万人超。2025年には約700万人、65歳以上の5人に1人にまで増える見込み。
高齢化が進む中、認知症は身近なものになっています。
認知症を発症しても、誰もが安心して、自分らしく暮らすためには、何が必要なのでしょうか。
本人と家族を支えるために、私たちがすべきことは。

【問い合わせ先】広報課(電話番号0942-30-9119、FAX番号0942-30-9702)

第一章 「忘れた」から見えること。

「夫の実名を掲載できるのなら」。取材に際して、育子さんが一つだけ言った条件でした。
2月、熊本学園大学に勤めていた羽江忠彦さん(81歳・本町)と、妻の育子さん(76歳・同町)を取材しました。

授業を忘れ、異変を察知

育子さんが異変を感じ始めたのは、忠彦さんが68歳の頃。「今日は何日?」「車の鍵は?」と頻繁に聞くようになり、授業を忘れた時に「やはりおかしい」と確信。「その時は脳神経外科で、アルツハイマー型の認知症と言われました」。
それから育子さんが通勤に同行するようにしました。「徐々に運転が荒くなり、相手が優先なのに、自分が出ようとするんです」。
平成19年、70歳で忠彦さんは退職。その年に「両側性海馬萎縮症」の診断を受けました。

症状の進行と向き合う

忠彦さんが症状の進行と向き合っていたのは、10年ほど前だろうと育子さんは話します。
「夫が『3行読んでは忘れ、元に戻り、同じ所を読んで3行進むのだ』と、よく話していました。症状の進行を感じるのは、どれほど不安だったでしょう。私もそれを見るのがつらかった」。
本人は葛藤し、家族は介護初心者。認知症初期にこそ戸惑いがあると、育子さんは言います。
その後、無断外出、道に迷う、物取られ妄想、収集癖など、特有の症状は一通り出たと言います。
「電車の中で『おまえが俺の金を盗むから一文無しだ』と、ののしられた時は困りましたね」と話します。

家族だけで背負わない

「認知症の介護は、家族だけで抱えられるものではありません」と話す育子さん。
忠彦さんの病気のことを、近所に隠そうとは少しも思わなかったそうです。「この考えは、人権問題に長年向き合ってきた夫から学んだこと。認知症と伝えると、周りの人の行動が変わるのを、何度も経験しました」。
育子さんが大切にしている言葉に「病、市に出せ」というものがあります。徳島県の言い習わしで、「つらいことや困ったことは、包み隠さず公共の場に持ち込めば、周りがいろいろと教えてくれる。この言葉こそが『認知症介護に大切なもの』だと感じました。 当事者が心を開かないと誰も近づけません。でも、安心して打ち明けるには、社会の理解も欠かせません」。

介護は「合わせ鏡」

育子さんは、家族会との出会いにも救われたそうです。
「認知症介護は合わせ鏡。私がいらいらすれば、夫もいらいら。私が穏やかにいると、夫も笑顔になっていたように感じます」。
そのために大切なのは、全てを抱え込まないことだと訴えます。
介護サービスなどを使い、「全部自分でやろうと思わないようにしました。信頼できるケアマネジャーさんに頼り、1人の時間も大切にしています。夫も安心して介護を受けているようです」。

第二章 忘れてもいいじゃない。

本人と家族の会「にこにこ会」の取材から介護家族に共通する悩みが見えてきます

毎月第2水曜。長門石の総合福祉会館で、認知症の人と家族の会「にこにこ会」の定例会が開かれます。
発足から20年以上にわたって、介護家族の悩みに寄り添い、支えてきました。

他では聞けないことも

にこにこ会の定例会には、毎回十数人が参加し、議事や報告事項が終わると、「おしゃべりタイム」が始まります。
「母の預金口座がいくつもあって、困ってるんです」。「妻の入院先の病院の説明に分からないところがあって」。
介護の中であった困り事や家の中のこと、自分の気持ちのこと、病院のことなど、具体的な話が出ます。
理事長の岩坂茂子さんは「家族が素直な気持ちを出せる場は意外に少ない。何よりも大切なのに」と言います。

なかなか話せない家族

介護者が周りに気持ちを打ち明ける難しさを、副理事長の藤井哲郎さんは経験を通して語ります。
「母を介護していた時、妻や子どもには弱音が言えません。でもつらくてたまらず、病院の先生に相談したら『息子のあなたが悪いのでは』と言われ、親族に電話で打ち明けても『長男なんだから』と言われ、不用意に人に話すと大けがをすると思ったりもしました」。
藤井さんはケアマネジャーの紹介でにこにこ会へ。「やったことは打ち明けただけ。でも、自分を肯定してくれる場所が見つかった」。
介護経験者という同じ立場の人だから話せることがあります。
家族会では、まず先輩会員がざっくばらんに話し始めます。「ここまで言っていいんだと、感じてもらうことが大切」と藤井さんは話します。人に打ち明けられる場が、何より介護家族を救うのです。

家族が感じる「後ろめたさ」ざっくばらんな場で寄り添う

あなただけではない

岩坂さんも、同じ立場の人に話して救われた一人。
「私は義母を介護してきました。家の近くを義母の手を引き歩いていると、近所の人から『良いお嫁さんね』『おばあちゃん幸せね〜』と声を掛けられるんです。これがつらかった。家の中では、介護に疲れて義母を疎ましく思う自分が居ましたから」と話します。
「介護家族は何かしら後ろめたさを抱えているもの。身内だからつい、『自分はきちんとできていない』と、完璧を目指してしまうんです。そこに寄り添い、あなただけじゃないと伝えたいんです」。

認知症を特別視しない

にこにこ会は、認知症カフェ「ニコニコカフェ」も開いています。
会員の自宅で、金曜の午後に開催。軽度の認知症の人と家族が対象で、会費は1回100円です。菓子を持ち寄り、2時間程度おしゃべりします。相撲やプロ野球の話から、通っている施設での出来事、思い出話まで、話は尽きません。
ある利用者の家族は「私は妻を認知症と思っていません。人より早く認知機能が低下しただけなんです」と話しました。
岩坂さんは、「認知症になった時点で特別視されているような気がします。『なんとなく違う』という空気が、認知症を表に出しにくくし、その結果、孤立を生みかねません。 発症で人が変わるわけではありません。一人でも多くの人がそのことを知れば、介護家族が『自分で居られる』社会に近づくと思います」と話しました。

認知症を知る

物忘れとは根本が違う
認知症とは、脳の病気などで記憶や思考などの機能が低下し、6カ月以上日常生活に支障を来している状態です。
単なる物忘れは、部分的な内容が思い出せなくなるのに対し、認知症での物忘れは「自宅の場所」「食事を取ったこと」など、それ自体を忘れてしまいます。
中核症状と周辺症状
認知症の症状は大きく2種類。
「中核症状」は、脳機能の低下が原因で、ほぼ常に出現。早期治療で進行は緩やかに。
「周辺症状」は、性格や環境、人間関係などが影響して出現。全ての人に起こる症状ではなく、環境の改善や周囲の対応、薬で改善することがあります。

中核症状

  • 新しく覚えられない
  • 判断力の低下
  • 時間や場所、人が分からない
  • 話が理解できない
  • ネクタイの結び方を忘れる

など

周辺症状

  • 幻覚や興奮で混乱
  • 意欲の低下
  • 不眠や食欲減退
  • 歩き回って道に迷う
  • 食べ物以外を口にする

など

認知症介護電話相談

にこにこ会が家族の相談を聞きます。匿名相談も可

  • 毎週火曜13時30分〜16時30分
  • 相談方法=長寿支援課に連絡。にこにこ会につなぎます

【問い合わせ先】長寿支援課(電話番号0942-30-9207、FAX番号0942-36-6845)

にこにこ会に入会したい人や、ニコニコカフェに参加したい人は、同会事務局(電話番号080-3908-2940、FAX番号0942-85-1163)に問い合わせてください。

第三章 忘れてもこの地域で。

認知症になっても安心して暮らせる
その実現のために

サポーターやメイト、推進員「優しい気持ち」が支える

団塊世代の高齢化で担い手は徐々に減少
市は認知症対策をどう進めるのでしょうか

高齢化率は30%に

2025年には団塊の世代が75歳を迎え、全国で約5人に1人が後期高齢者に。高齢化率は30%に達すると見込まれています。
今後、認知症の人も増えると予想される中で、久留米市の対策を、長寿支援課の平塚晴香さんは次のように話します。
「久留米市は、認知症になっても安心して暮らせるまちを目指します」。
市は今年、「第7期高齢者福祉計画及び介護保険事業計画」を策定しました。2025年を見据えつつ、32年度末までに何を進めるかを明らかにしています。
「目指す姿の一つに『安全に、安心して暮らし続けられるまち』を掲げています。そのために大切なことは、地域全体で認知症の人と家族を支えられることだとしています」。
家族会の皆さんの取り組みもその一つです。「計画で、取り組み全体を体系的に整理しました。多くの人の理解を深めるための普及啓発や、適切なサポートが受けられる仕組みづくりなどを進めます」と、平塚さんは説明します。

サポーターは2万人

多くの人に理解を深めてもらう取り組みの中核をなすのが、「認知症サポーターの養成」です。サポーターは、何か特別なことをするのではありません。講座で認知症を正しく理解し、自分に関係あることと認識してもらいます。認知症の人や家族に優しい気持ちで接する人が増えることを目指した事業です。
サポーターを養成する講師役になるのは「キャラバン・メイト」。校区や学校、企業といった身近な場所で、認知症に対する理解を広める重要な役割を担っています。
「メイトには、医療・介護従事者や家族会会員など、専門家や経験者だけでなく、研修を受講し、自ら学んだ市民も居るんですよ」と話す平塚さん。久留米市の認知症サポーターは、2月末で2万4353人、キャラバン・メイトは354人と、多くの理解者が市内各所で活躍しているそうです。

講演や街頭キャンペーン

市はにこにこ会などと協働し、認知症予防地域講演会を開催しています。年5回シリーズで、介護の実例や地域での支え合いの姿などを紹介。29年度は延べ約322人が参加しました。
また、NPO法人くるめ地域支援センターなどと共に、市民公開シンポジウムを開催するなど、認知症を学ぶ場を提供。その他、街頭キャンペーンなどさまざまな啓発を行っています。

地域をつなぐ人を配置

認知症の人と家族を支えられる地域づくりを実際に進めるために、市内の地域包括支援センターに「認知症地域支援推進員」を配置しています。
同推進員は、道に迷った認知症の人への声掛け訓練を行う他、地域の介護施設に認知症の人や家族の集いの場をつくり、住民に参加を促すなど、地域のつながりを生み出すための取り組みを進めています。

キャラバン・メイトで9年 江上憲一さん(篠山町)

キャラバン・メイトには医療・介護の専門家以外に、一般の市民もなれて、私もその1人。
サポーター養成講座では参加者の目線で話すことを意識しています。
理解者が多いほど、認知症になっても安心して暮らせる地域になるはず。
各校区にメイトが増えれば、サポーターも増える。理解が広がっていくことを期待しています。

サポーター養成講座を受講 馬場和子さん(北野町)

金島校区のふれあい学級で開催しました。受講してみて、認知症のことを知れば接し方は変わると思いました。
早い時期に知ることで、身近になって避けたりしないはず。
小学生やその保護者が知る機会をつくれれば、認知症を支えられる地域に近づくと思います。
せっかく学んだ知識を地域で生かせればと、参加者同士で話しています。

私も認知症サポーターになりたい

講師のキャラバン・メイトを派遣します。
市内に住んでいるか通勤・通学している10人以上のグループが対象で、料金無料。
会場は受講者で準備してください。

【問い合わせ先】長寿支援課(電話番号0942-30-9207、FAX番号0942-36-6845)

認知症地域支援推進員が感じる「違う立場」で集まる意味

認知症地域支援推進員を務める、南地域包括支援センターの三宅晃代さん。発症しても安心して暮らせる社会になるために必要な「つながり」のポイントを聞きました。

介護家族に目を配る
私は以前、介護事業所で働いていました。今思うと、その時のケアは十分ではなかった。介護家族に目を向けていなかったからです。
デイケアの送迎の時間までに、利用者の支度を手伝う家族は時間との闘い。認知症の症状の一つで、外で愛想良く振る舞う人は多い。利用者が笑顔で出てきた時、そこまでに家族はどのような行動をしていたのか。家の中を想像する大切さを、今は感じています。
家族特有の悩みを知れば対応は変わります。そのために私たちは、介護事業所と住民、家族がつながれる環境をつくっています。
深く知ることが大切
ポイントは、「立場が違う人間がつながること」。家族の気持ちは想像だけでは分からない。でも、支えるにはそこを知ることが大事。一方、介護事業所との接点ができれば、そこで相談できることを知ってもらえます。さらに、複数の人が集まることで、認知症の兆候を早期に見つけやすくなるという面もあります。
認知症の人とその家族だけではなく、若い皆さんにもこの問題に向き合ってほしいんです。つながりづくりは、仲間を増やす感覚なんです。これからも、たくさんの仲間をつくりたいと思っています。

あなたの不安を和らげたい

不安や悩みを解消して、認知症ともっと向き合う。その気持ちを後押しする市の事業を紹介します。

まずは情報が欲しい

認知症支援ガイドブック
正しく理解して、早期発見・治療につなげられるよう、医療・介護の専門職や家族の会などに意見を聞いて作りました。早期発見のためのチェックリストや、段階別の症状と対応のポイント、相談できる医療機関や介護サービスなどを掲載。長寿支援課や各総合支所、地域包括支援センターなどにあります。

とにかく相談したい

地域包括支援センター
認知症も含めて、高齢者の日常生活に関する相談や支援を広く担います。市内11カ所全てに、認知症地域支援推進員を配置。センターの連絡先は、長寿支援課に問い合わせるか市ホームページで。

自分の状態を知りたい

ものわすれ予防検診
久留米大学高次脳疾患研究所の専門家が、認知機能を無料で検査します。5月30日(水曜)、7月18日(水曜)、8月29日(水曜)、9月19日(水曜)に開催。

【問い合わせ先】長寿支援課(電話番号0942-30-9207、FAX番号0942-36-6845)

エピローグつながりを忘れない。

人や地域がつながり、みんなが自然に振る舞えれば誰もが、なにより「私」が、安心して過ごせるはず
発足以来、にこにこ会が持ち続けている思いです

誰も孤立しない社会に

にこにこ会の初代理事長の赤裏みち子さん。ある会員は「とにかく一回、全部を受け止めるから」という彼女の言葉に救われたそうです。
小さな子どもにも同じ目線で向き合う。偏見や理不尽があれば、相手が誰でも真っ向から。平成7年、多くの人が赤裏さんの考えに共感し、家族会のかじ取りを託しました。そして今、会に支えられて介護生活を生き抜いた人が、会に参加し、現役の介護家族を支えている。赤裏さんの考えへの共感からかもしれません。
介護生活には、認知症の人を介して社会とつながるという面があります。しかし、区切りとともにつながりを手放し、孤立してしまう場合があると言います。
「いつまでもつながっていられる」場所をたくさんつくろうと、行政や関係機関、にこにこ会などが力を合わせています。

多くの課題に通じる

「人と人、地域のつながり」。この大切さは認知症に限りません。例えば、高齢者の生活支援、障害者の高齢化、高齢者虐待の防止。超高齢社会が直面する課題の解決にも欠かせないはずです。羽江育子さんは、「発症直後、夫の友人が駆けつけてくれて。夫が築いたつながりが、私を救ってくれました」と話します。
特集のテーマ「忘れる」。人と人がつながりを忘れず、お互いに自然に振る舞える社会なら、誰もが安心して暮らせるはず。今一度「つながり」を考える。この特集が、そのきっかけになることを願っています。

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